「スマンな。柚待たせとるねん、ほなまた」
声が響けば、輪の中から蔵が出て来る。
女の子たちは不満そうな声を上げながら渋々退散。
ウチに向けられる視線が痛かったのは、…仕方ないわな。
「ほな、機嫌直しや。またな」
「また明日、謙也」
今日は謙也に当たってしもたなぁ。…今度ジュースでも奢ったろ。
「帰ろか、柚」
「せやな、帰ろ」
座っていた机からひょいっと飛び降りて、あることに気付いた。
………あれ?
「蔵、なんでお菓子一個も貰ってないん?」
いつも両手いっぱいにお菓子貰っとるくせに一つもないやん。
(…なんでなん?)
「今日は断ったからなぁ」
「珍しいやん。どうしたん?」
蔵は優しいから、バレンタインチョコとか、ちゃんと笑顔でもらいよった。
差し入れも、なにもかも。
「今日は、柚がくれるからな」
「………え、え?」
「俺は柚がくれるんやったらそれでええ。他のはいらんのや」
そう言い放つ蔵の横顔を、ウチはひたすらに見つめよった。
今、蔵…言ったよな。ウチのしかいらんって。
特別に聞こえるんは……、ウチの自惚れやろうか。
(嬉しくて…しゃあないわ)
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