愛しくて仕方なかった腕に抱きしめられて、愛を確かめるように何度も何度も口付られて、そして。
「待っ…!く、蔵っ」
「待てへん」
蔵の部屋に強引に押し入れられる。服も髪も全部濡れたまま。ウチの歩んだところが床に水の足跡を作っている。そのまま有無を言わさずベッドに押し倒された。
「ベッドが濡れてっ、」
「ええよ、もっと濡れるんやから」
濡れるって…、つまり、そういうことで…。赤面しながら顔をそらすと蔵は半ば満悦気味に微笑んでいた。雨に濡れた彼の髪先から水滴が落ちる。…何て色っぽいんやろう。
「柚、脱がんと風邪引くで」
「せ、せやな、着替えを…っ」
起き上がろうとするとニコリとした表情の蔵に再び縫い付けられた。
あ、あかん。
「俺が温めたるから心配ないで?」
スイッチ入っとる。
「あかんって、蔵…!」
胸元に唇を近づけ舌を這わせるその行為に身体の芯が震える。
弱り切った力で抵抗するもの無駄やといわんばかりに戯れの如く軽々しく手を握られる。多分、蔵は本気や。ウチやって、それを望んでないと言えば嘘になる。でも今は、今はゆっくり蔵と話をしたい。
「待ってや、蔵っ」
「なぁ柚、」
一度静止する腕。
真剣に見つめるその瞳に、ウチは。
「俺、いつまで待てばええん?」
何も言えなかった。
きらめき眩く春はめくるめく
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