白兎を追いかけて | ナノ






―――…


「アホか、…俺はっ」

カシャンッ!とテニスコートの柵を力一杯殴った。指が切れて血が出ているけど痛くあらへん。こんなん全然痛くあらへん。


いつものように告白されて、運悪く柚が通りがかった。普通に断るつもりやった。せやけど、柚の気を引きたくて、曖昧な返事をしてしまった。付き合う気なんてサラサラないのに期待させて……なにしとるん俺。「ウチ以外の女の子と付き合わんで!」とか、柚が言うてくれると思ったんか?アホや。どうしようもないアホや。



こんな。こんなに、どうしようもないほど好きやねん。押し寄せる後悔。せやけど、仕方なかった。仕方なかったんや。あのとき突き放さんかったらよかったと思う一方、離れへんと自分が壊れると思った。

大好きな子が違う男の腕の中で口付けを交わすのは……、耐えれるもんと、ちゃう。




「白石部長…」

「……っ、財…前」


何で、よりにもよって今、現れんねん。こんな…完璧からかけ離れた状態は見せたくない。

「悪いけど、おまえの顔は今一番見たくないねん」

吐き気がする。

「どっか行ってくれんか」

財前がおらんかったら、と考えてまう自分が心底嫌いや。


睨みつけるように視線を向けると、正面にいる財前は深く深く頭を下げていた。


「ホンマに、すみませんでした」

「……財前?」


下げた頭は上がらない。頭を垂らしたまま、謝罪の言葉を続けた。



「悪いのは俺です。柚先輩は何も悪くあらへん。無理やりキスを、してもうたんです」

「………、柚は、俺に言わへんかった。キスされたことも隠し通そうとして、あの日は自ら財前に会いに行った」


認めたくない事実を口にするのは苦しい。

「…そらそうです」

財前は頭を上げて真っ直ぐに俺を見据えた。

「俺は柚先輩を脅して、騙したんですから」
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