振り返ればキラキラ光る蔵とのたくさんの思い出たち。失ったことで、より一層輝きを増したよう。
幸せやった。あの頃は。
「花風、今日の部活雨やから筋トレな。ノート書いたら帰ってええで」
柚!
もう、呼んでくれへんの?
「うん…」
もう、君は隣におらへんもんな。
柚、大好きや!
夢を見てたんやないのかと思うくらい、簡素的すぎる今の関係。
ウチは蔵を傷つけた。たくさん傷つけて、裏切って、嫌われて当然。
せやけどウチ、我が儘やから。蔵をたくさん傷つけても懲りずに願ってしまう。
「戻りたいっ……」
また、手を繋ぎたい。キスをしたい。一緒に笑いあいたい。隣にいたい。
切なる願いは曇り空の中へ消えていった。
そんな彼女の姿を唯一目にした彼は抱き締めたい衝動を抑え、彼女を痛めつける元凶と悲劇を招いた己の不甲斐なさを痛感していた。
「…柚先輩」
笑っていてほしかった。それが一番の願いだった。
その笑顔を壊した原因は、……俺。
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