「あの、白石くん」
「君は確か……」
文化祭、俺と柚は写真館で記念写真を撮った。この子はそのとき撮影してくれた物静かな写真部の女の子や。
俺って案外記憶力ええんやな、なんて呑気に考えていると、彼女は思いもよらないことを口にした。
「写真…見ましたか?」
「な、!?」
写真。
この子は今、確かに『写真』と言った。俺の中で、今『写真』といったら、アレしかない。
相手に分からないように深呼吸をして自分を落ち着かせる。ほんまは勢いのままに問いただしたいけど、そないなことしたって空回るだけや。
「…君が、あの写真をいれたん?」
「はい」
「正直に言うてほしい。……あれは、事実なんか?」
違う、と。言ってくれることを願った。彼女が「面白半分で作ってしまいました」なんて言ってくれたら、俺はどないに救われたやろう。
せやけど現実はシビアで。
「…はい」
突きつけられた事実に、目の前が真っ暗なのか真っ白なのかも分からなくなった。
「…あんなん、上手く撮れすぎやろ。あの角度やったら盗撮したんは部室の入り口。そんなんしたら、物音やシャッター音でいくら何でも二人は気付く筈や!」
「財前くんは気付いてましたよ」
「…!?」
「花風さんは気付いていませんでしたけどね。アレを撮ったのは、本当に偶然だったんです。広報部からテニス部の特集のために撮影をお願いされていて、けれどその日はもう皆さん帰られていたみたいだったから出直そうと思いました。そのとき部室が少し開いていることに気付いて、偶然あの光景に出くわして、盗撮してしまいました」
「…君は、そないなことをするような人には見えへんけどな」
君に何の利益があるん?
「わたしは美しいものを撮ることが趣味です。そうですね、今一番興味があるのは白石くんです」
「………俺?」
「だから花風さんが邪魔なんです」
笑顔でにっこりと告げた彼女に恐ろしいものを感じた。この子はきっと、目的のためなら手段を選ばんのやろう。
「花風さんは屋上に向かわれたみたいですね」
「……そか」
「ちなみに、屋上には財前くんがいますよ」
「な、なに言うて…!?」
強すぎる衝撃が走った。
嘘や、嘘や嘘や。
そんなんまるで、柚が財前に会いに行ったみたいやんか。
別段暑くもあらへんのに額につぅ、と汗が流れる。
「そないデタラメ…信じるわけ、あらへんやろ」
動揺が隠せない俺に対して、彼女は危険に微笑んだ。
「それじゃあ行ってみたらどうです?」
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