蔵はなにを考えてんのやろ。
ウチのこと?
でも、何かあるなら言ってくれる筈やし……。
ぐるぐるぐるぐる。
色々考えるけど何も思い当たらない。
朝一緒に登校しよるときは普通やった。様子が変わってもうたのは靴を直したときぐらいから。
唯一、心当たりがある。
蔵に隠し事がある。
絶対に知ってほしくないことがある。
「ねぇ、…蔵」
「ん?」
「もしかして…なんやけど、」
蔵は知ってるんちゃうか。
知っているけど、言わへんだけで。
ほんまは……、
“ヴヴヴヴ”
タイミングよくポケットの中で震える携帯。
蔵に見えないように確認すると、ディスプレイには“財前光”と表示されていた。
しかも着信。
(………こんなときに…、)
出らんの?と言われ、ここで出らヘんかったら怪しまれるやろうと思い、ごめんとだけ言って蔵から離れて通話ボタンを押した。
「もしもし」
『……柚先輩』
「どないしたの?…なにかあった?」
『先輩、…俺』
いつになく弱々しい声。
ほんま、どないしたの?…光くん……?
『先輩、助けて』
「え……?」
『今、屋上におります』
光くんは弱々しくそう言って、電話を切った。
ウチの耳元ではツー、ツー、と幾度も繰り返す音が鳴り響くだけ。
助けてって…、光くんは今、助けを求めているの?
(…ウチに?)
どないしよう。
正直、今は光くんと至極関わりたくない。2人っきりなら尚更。
せやけど、弱りきった光くんの声。
…光くんはウチを待っている。
文化祭のとき、蔵へ告白しようと勇気が持てたのは光くんのお陰やった。
いつもいつも、光くんはウチを第一に考えてくれて、心配してくれて。
今のウチがおるのは、光くんのお陰。
(…いかなあかんやろ。)
大切な後輩の非常時に、駆けつけてあげれへんのは先輩失格や。
すぐ戻ってくるから。
「蔵、ちょっと…行ってくる」
「ん?おん」
だから、待ってて。
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