白兎を追いかけて | ナノ




それからも、蔵はおかしかった。


英語の時間なんに平気で国語を出して言われるまで気付かずに勉強しよるし、シャーペン押すときも逆やし。

先生に当てられてるのにも気付かへんし、ウチが喋りかけてもやっぱり上の空やし。


「蔵」

「…おん」

「好き」

「…おん」

「世界で一番好き」

「…おん」

「水銀の元素記号は?」

「…おん」



…重傷だ。


「ちょ、ほんまに蔵どないしたん!?今ならキスしたるから戻って来てやーっ」

「…キス?」


バッ、と、キスというキーワードに反応したのかやっと蔵が顔を上げた。


「あ、ごめん…ここではでけへんけ、」
「誰かとキスしたんか?」



…………え?



蔵は少しばかり睨みつけるようにウチの右腕を握った。

え、…なに?誰かと、キス?

蘇る数日前の口付け。光くんとの……、キス。



蔵は、知ってる?

いや…まさか……。


「するわけ…ないやん。やって、ウチの彼氏は、蔵やし…」

「…せやんな。分かってるんや……。疑って、堪忍」



知ってるわけ、ないやんな。
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