「遅刻してまうで?そろそろ、」
「あ…待って!」
背を向けて歩こうとする蔵に思わずとびついた。
ぎゅーっと抱き締めればじんわり、と。朝から蔵の身体は温かい。ウチはこの熱が大好きや。
嫌なことも心配事もなにもかも忘れられる。
「只今充電ちゅー…」
「柚、」
抱きついていて蔵の顔は見えへんけど、きっと優しく笑ってるんやろう。優しくて大きな手が降ってくれば頭を撫で、そして。
「……ん?」
降りてきた手は頬を撫でていた。あれ?なんかこの体勢、今にもちゅうしてまいそうやな。
ずいっ、と近付いた蔵の顔。
その距離、5センチ。
「待ち、ここウチん家の前…やで?」
「おん。知っとるで」
いやいや、ちゃうくて。
「ウチのおかんが見てたらどないすんの!おとんに見られてたら蔵絶対八の字固めされるで!」
「八の字固めはされんやろ」
「この前『ハゲ増し合い助毛合う』て言うたら怒られてされた」
「…さよか」
「歳をとるって怖いなぁ。メンタル的にも毛髪的にも」
「そないなことさらっと言いのける自分も十分怖いで」
早よ蔵をおかんとおとんに紹介したいなぁ。せやけどおとんはウチラブ!やから。
「柚の親御さんと仲良うなりたいわ」
(鉄拳の一発や二発は覚悟しとかなあかんで…蔵りん)
「……おおきに」
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