昨日、部室に向かう途中で財前に会った。
いつも通りの様子に最初は気をとめなかったが、失礼しますの一言が変に空々しく感じられた。
「なぁ財前」
せやからつい、用もないのに引き止めてしまった。
「なんです?」
振り返る財前はいつも通りで、俺は考えすぎてるんやとすぐに自重した。
「…なんでもないねん、スマンな」
「…そうですか」
再びイヤホンをつけて俺と反対方向に歩き出す。
せや、考えすぎや。部室で柚に何かしたんやないかって疑って。…そんなわけあらへんのに。
いくら柚を好きでも、意味深な台詞を残したとしても、財前は柚に何もせえへん筈や。
財前はなんだかんだ言うても柚の幸せが一番やと思うてるし、なにより柚が哀しむようなことはせえへん。
…と、俺は信じていた。
信じるというよりも願っていたと言ったほうが正しいんやろう。
やって財前を疑ったら、柚が悲しむ。
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