白兎を追いかけて | ナノ




ほんまに、穏やかな昼休みやった。
謙也が体張って馬鹿して、光くんがクールに突っ込んで、隣に蔵がいて、ウチも笑って。


昨日の出来事は嘘やったんやないかって錯覚した。これからもこんな楽しい日々を送れるんやって確信した。



「柚ーなして空は青いんやろうなぁ」

「謙也がアホやからないー?」

「あーそうやったんかぁ」

「うんーそうなんだよー」


窓際にて、謙也と二人平和ボケとしか言いようがない会話をしていた。

やからウチは、後方での会話を知らない。



「……かわええですね」

「ん、何の話や」

「せやから、…柚先輩」

「…………まぁな」


「柚先輩が誰かに取られてもうたらって考えんのです?」

「アホ、毎日考えよるわ」

「誰が狙いよるか、分かりませんからね」

「…………、なぁ財前。おまえほんまはずっと前から柚を、」
「部長」


その先は言葉にしたらあかんですよとでも言うように遮った。お互いの目を見て、真意を読み取ったよう。


踵を返す財前、静かに頭を抱える白石。白石の吐いた溜め息が全てを物語っていた。



「ほんなら俺、帰ります」

「えーっもう帰るの光くん!」


呼び止めるように光くんに駆け寄ると、珍しいことにニコリと笑っていた。


「もう掃除ですよ?先輩」

「あー…そっか、また来てね」


ねぇ光くん。昨日の出来事は何かの間違いだったんだよね?ちょっとむしゃくしゃして、あないなことしちゃったんだよね?

ここにいる光くんは、いつも通りだもの。昨日の光くんはここには居ない。


笑い返すと、光くんはまた笑った。うん、大丈夫、きっと大丈夫。


「昨日のこと、忘れんといて下さいよ」




囁かれた一言。

表情も動きも感情も、なにもかもが硬直した。

声すら、出ない。
だってそのくらい衝撃的で。

現実を叩きつけられた気分だった。
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