蔵にはちゃんと、言わな。
報告せなあかん……けど、
「独占欲強い人って、自分のモノ汚されたとき、嫌になって捨てたくなるもんなんですよ」
(…………っ。)
言えない。蔵に捨てられるやなんて、万が一でもあってほしくない。
「なんでも……ないや」
ばれへんかったら、ええ。
せや、ばれへんかったら…。
「なんか言いたそうやけど、なにかあったん?」
「なんでもない……、ほんま、なんでも」
言えへん。
光くんにキスされたやなんて言えへん。
ごめんごめん、ごめん。
こんなんあかんて分かってるけど、蔵に言いたない。嘘ついて…ごめんなさい。
「なぁ、柚…やっぱりよかったら、今日俺の家に来れへん?」
「……あ、えっと…」
にこやかな笑顔を見せる蔵は、何も知らない。ウチと光くんがキスをしたやなんて、想像もしてないやろう。
「今日は…ごめん、行けへん」
「そうか……、」
「ほんまごめん…」
「ええねんで?いつでもええんや、俺は待ってるから」
蔵の優しい笑みに、胸が痛んで仕方なかった。
ごめんなさい。
ウチは今日、蔵に秘密事を作ってしまいました。
でも、でも、ウチは……。
蔵とも、今のままでいたい。
この関係を壊したくない。
「蔵大好きだよ?」
「知っとるわ。…俺も好き」
蔵の温もりに包まれると、光くんとのことなんてすぐに脳内から消えていた。
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