白兎を追いかけて | ナノ





「柚先輩に、会いに来た」




いつもは決して発さない言葉を言うもんやから、驚く他なかった。

口がぽかんと開いたまま、光くんを見上げる。
この人はほんまに光くんなんやろうか。


「そのアホ面、ひどいわー」

あ、いつもの光くんや。



さっきの会いたかった発言は空耳なんやろう。じゃないとおかしいわ、うんうん。


「そんなアホ面も、可愛いですわ」

え。



ひ、光くんがウチを可愛いやって?なんやねん!なんのドッキリや!

今まで不細工だとか散々抜かして来てのコレ、君は典型的なツンデレか!


「光くんなに?飴が欲しいの?」

「ちゃいますから。いらいらさせますね、ほんま」


なに?なに?なんやねん!

光くんはなにを求めてるん!?


光くんの言葉が理解不能で、ただひたすらわたわたしていると、腕を引かれた。


スローモーションのようで、だけどほんまに一瞬の出来事で。


いつもキスをするとき、蔵の顔が間近にある。今ではそれに安心感を覚えていた。今日は、違った。


安心感なんてヒトカケラもなくって、目の前にいるのは、光くん。

唇を合わせたのは光くん。

キスをしたのも、光くん。



「俺、柚先輩のこと、やっぱり好きみたいです」




幸せな日常が、少しずつ、壊れていく。
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