<<<<
(なして、俺が。)
二人の行き先なんて分かる筈ないんに、俺はひたすら砂浜を歩いていた。
二人とすれ違いになってもうたら面倒くさい。この上なく面倒くさい。
もし見つかったとしてお楽しみ中やったら面倒くさい。限りなく面倒くさい。
とにかく面倒な事態になることは決定事項らしい。
時間が流れるのは早く、もう夕方だ。夕暮れの空をそっと見上げた。
今日も柚先輩は楽しそうやったなぁ、と、考えるだけで笑みが漏れる。
白石部長の隣で、笑っていた。
せや、それでええんや。それがええんや。
やって柚先輩の好きな人は白石部長。柚先輩の想い人なんやから。
白石部長の隣にいることが、柚先輩の幸せや。
二人は誰が入る隙もないほど想い合っていて。だから俺の役目は終わりや。
俺は何なん
は?
俺の幸せは何や
そんなん柚先輩が幸せそうに笑ってることに決まってるやろ。
ほんまにそれだけでええんか?
欲を言うと、ほんまは――…
(…………っ、)
そんなん、思ってへん。
自分のもう一つの声をひたすら否定する。だって、ありえへんし。
えらい端っこまで来てもうたし、ええ加減引き返そうかと思っていると、茂みから聞き覚えのある声が聞こえた。
「ひぁっ、」
「かわええわぁ柚」
「待っ…て、やっぱ…誰か来ちゃ、ん…かも……っ」
「今更なにいうてんねん。誘ったのは柚やろう」
「そ…だけど…っ、やぁ」
実際に目の前にして、予想していた自分の感情とは大きく異なった。
懇々と湧き上がる得体の知れない感情。
どす黒い嫉妬心が広がっていくのが確かに分かった。
- 211 -
← | →