蔵を無理やり引っ張って、連れてきたのは木の生い茂るビーチの片隅。
ここならきっと誰も来ない筈。
足を止めるとすぐさま手を離された。
なんでそないにつらそうな表情なん?ウチが、なにかした?
思い当たることがありすぎて、かける言葉が見つからない。
ウチのガードが堅いから怒っちゃったのかな。面倒くさい女やなぁて思ったんかな。我が儘だから、愛想が尽きちゃったんかな。
…こんなウチやけれど蔵が好きで好きでたまらんの。
ほんまはいつも触れていたい。
蔵から着せられていたパーカーの裾をぎゅっと握って思いをかみ殺した。だけれど目の前にいる蔵を瞳に映しただけで衝動が起きる。止まらない。
ぎゅうっ、と。
気付けば蔵に抱き付いていた。
衝動が収まらない。
蔵に軽く振り払われることは分かっている。だけれども。
…ウチは離れたない。
蔵の表情が見えへん。…ちゃう。ウチが見ないようにと蔵の胸にうずくまっているだけ。
だって怖いもの。腕を回してくれない蔵が今なにを考えているのかって、知りたくないんやもん。
「柚、もうアカンわ」
「………。」
アカンって。
アカンってなんやの。
「いや」
別れるやなんて言わないで。次に発する言葉なんて聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない。そんなこと言ったってウチは絶対認めへんから。
「ウチ言うたやん。蔵がおらんと生きていけんの。こないに好き…。すき、すき、好き」
好きだから、離れんで。
「せやから、アカンて言いよるやろ」
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