「めっさ美味しいわこのお肉、ねっ蔵!」
「ほんまやなー」
「………。」
「……。」
一歩近付くと一歩後退りをされる。
え、なして距離をとられてるんやろう。避けられとるわけやないけど……、この一定の距離は変だ。
「…蔵ノ介さん」
「…なんですか」
ぐいっと近付くとぐいっと避けられる。まじで何事だこのやろう。
いつもは構って構ってな筈なのに、なして近付くと逃げるん。これじゃあいつもと逆だ。
「ねぇ、蔵ノ介」
「せやからなんやねん」
こっちの台詞じゃドアホ。
「…あの、さぁ」
蔵の腕に触れる、と。
「!」
過敏に反応されて、振り払われてしまった。
予想外の蔵の行動にショックが隠せない。
「え、」
「あ、堪忍………つい」
ついってなんやねん。
今の完っ璧な避けっぷり。
蔵の表情から寄るな触れるな近付くなと言いたげである。
…あぁ、分かったわ。
こんなんされたらウチがすることはたった一つやないの。
「ごめんオサムちゃん!蔵とデートしてくる!」
「え?ちょっ、柚!?」
振り払われないようにぎゅっと掴み、ウチは走り出した。
「おー行ってこい行ってこい!青春も今のウチやで〜ハッハッハ」
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