海の水はひんやりとウチらの肌を濡らし、だけど心は温まりっぱなしやった。
「柚、辛ない?」
「蔵が抱きかかえてくれてるから全然平気」
ウチは蔵の首に腕を回し、しがみつくように捕まっていた。
どんどん深なっていく。きっともうウチの足は届かないんやろう。
今のウチは、蔵が命綱。
きゅっと強く抱き締めると、蔵に抱きかかえられている腕もより締め付けられたような気がした。
「深いねー」
「あんまり奥まで行ったら怒られてまうからな?」
「らじゃー」
「もうちょっとだけ行こか」
ずんずん進んで行くこの方向が、ウチと蔵のたった二人だけの世界であればいいのに、…なんて。
「蔵、パーカー脱いでええ?」
「なして?」
「水含んで重いねん」
「あぁ、せやったな堪忍」
ごめんね蔵。やっぱりウチは、蔵が大好きで。都合よく触れたいって思っているみたい。
「…なんて、ごめん、嘘」
「………え?」
「ほんまは重いんやなくて、いっぱい蔵に触れたいの。蔵の肌の熱を全身で感じたい」
視線と視線が重なり合って、甘さを生み出す。こんな甘美な瞬間、他にない。
蔵はしばらく黙っていて、見つめ合った後に「俺もや」と呟いた。
「…蔵が、して」
「?」
「蔵が、脱がして」
自分の言葉の恥ずかしさに俯いていると、蔵はすぐさま返事をしてくれた。
いつものように優しい笑みを浮かべるでもなく、静かに、何か訴えるような、気持ちを押し殺した声やった。
「ええで」
- 203 -
← | →