―――…
優衣とあのはなしをしてから、蔵の顔をまともに見ていない気がする。
だってだってだって、恥ずかしいんやもん。
ファーストキスをした後にオカンの顔が見れへんようなあんな感覚や。
蔵はウチの態度がよそよそしいことに気付いているのか、部活の今も結構視線を送って来ている。
(あかんねん……今は。)
蔵を見ようとすると、あのはなしを思い出して顔が赤くなってしまう。
優衣は蔵に聞かなあかんて言いよったけど、到底無理や。
やってウチはあの言葉を口にしきらんのやもん。
(せ、せ、セ………。)
心の中でも言えへんのやから、蔵の耳に届けるのはとてつもなく難しい。
まるで“名前を言ってはならないあの人”かのよう。ハリー・〇ッターやな。
…ウチが言えへんのは、人ちゃうけど。
一回だけ。
…とりあえず一回だけ言ってみよう。
(せっ、せ…せっく、)
これじゃあまるで謙也やないか。
ウチはヘタレちゃうもん。
(せ、節句。…ちゃうくて、せ、セ…………、)
「……せっくす」
お、言えるやん。言えるやないウチ!
やっぱスーパー少女やから、出来ひんことも言えへんこともなんもないっちゅー話や!
「セックスがどないしたんです?」
(…………………。)
ウチの背筋が異常なまでに凍りついた。
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