連れてこられたのは三年二組の教室。
文化祭とあって流石に誰もいなかった。
「ちょっと待っててな?」
蔵にそう言われて一人で暇なウチは窓の外をぽけーっと眺めていた。
グラウンドの隅っこのあの木は、蔵と出会った場所。
大切な大切な場所。ウチがあそこにいたから蔵に出会えたんや。
(それから、ほんま色々あったなぁ)
一生懸命蔵に恋して、様々な気持ちを知った。
テニスコートも、この教室も、蔵との思い出に欠かせない大切な場所。
そしてこれからも、かけがえのない思い出を作っていくんやろう。
「柚」
ドアが開いた直後、蔵の呼ぶ声が聞こえた。
軽い気持ちで振り返って、彼の姿を捉えると思わず絶句した。
「…っっ、蔵」
そこにいた蔵はホストクラブのあのときの姿をしていた。
スーツを着て、こちらへ一歩一歩近付いてくる。
目の前にして、まばたきすら出来なくなった。
少しはだけた襟元から、すごい色気を感じる。
あまりにも綺麗な鎖骨が、ウチに手を伸ばしたくなる衝動を誘う。
長い手足が、甘いマスクが。
反則やて、こんな…。
「綺麗やで、柚」
「……っ」
もう、あかんて。
なんで蔵はこないにも、かっこええんか。
「ほな、結婚式でもやろか」
差し伸べられた手のひらは、震える手を重ねるしかなくて。
二人だけの甘い空間へと誘われた。
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