白兎を追いかけて | ナノ



進めへんのやけど。進んだら絶対あかん病や、これは。



「ううー…蔵〜っ」

「ほら、おいで」

まるでご主人様とペットのようにウチは蔵にすり寄った。

ウチがもしペットなら、蔵に飼い慣らされた従順な猿やな。

蔵はウサギて言うんやろうけど。



「怖いなら、しがみついとき?」

「う、うん…」


蔵の右腕に、抱きつくようにしがみつく。

怖いドキドキと、密着しているドキドキが混ざって、ちょっとおかしくなりそうやった。


「ねぇ蔵、怖いから目瞑っててええ?」

「ん、ええよ」


ぎゅぅーっと目を瞑ると、当たり前やけどなにも見えない。

よっしゃ、これで怖ない…!


このまま安静にゴールまで行けると確信したときやった。



――ちゅ。

なにか柔らかいものが額に触れた。


(……え?なに今の?)


おそるおそる目を開けると、とくに障害物はなにもない。

なんやったんやろうと首を傾げながら蔵へ目を向ける。


え、なんかニヤニヤしてへん?


「ねぇ蔵」

「なん?」

「もしかしてなんやけど」

「おん」

「おでこにちゅーした?」

「おん」


「な、なんで来ないところでするんねん!」

幽霊役もええ迷惑やろう。


「目瞑ってるからよけれんのやろ」

「え?」

「次は口にするで」


ちょっ…、なんでそうなんねん!



「あかん!」

「ほな目開けとき」

「そんなん怖して無理や!」

「せやったらちゅーされるなぁ」


「………っ!」


なんとなく。なんとなく分かった。

蔵はウチを苛めて遊んでいるらしい。


とんでもない悪趣味や!
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