白兎を追いかけて | ナノ



「される直前にヤバイて思ってな、咄嗟に体を逸らしたら唇の下に当たったっちゅーわけ」


蔵は唇の下を指差して、説明してくれた。


「ほな、ちゅーしてへんの?」

「してへんよ」

「よ…かった」


キスしてへんというたった一つの事実がとても嬉しい。


「もう、ちゅーもぎゅーも…他の人に…せんといてくれる?」


独占欲が止まらない。

やけど、蔵は受け入れてくれたから。

「当たり前や。柚にしかせえへん。柚ももう、薮内としたらあかんからな?」


「うん。……了解っ!」


ウチが薮内くんと抱き合っているとき、蔵もウチと同じ気持ちで見てたんかな?

嫌やって思ってくれてたんかな?


「目、真っ赤やで。…ごめんな?こないに泣かせてしもて」

「ええねん。蔵が、好きて言うてくれたから、もう何でもええ」


「ほんまに、ウサギみたいやな」

「へ?」

「…いや、なんでもあらへん」


涙跡を舐めるその仕草に、胸がきゅんとなった。


「この前、無理矢理キスしてごめんな?」

「え?…や、ウチは」


無理矢理でも嬉しかったんやけど…な。


「薮内のことが好きなんかなぁて考えたら、カッとなってしもた。あー無駄。心の余裕一切あらへんかった。あーかっこわる…」


照れたように顔を逸らす蔵が、可愛くて可愛くてたまらない。

その仕草に思わず笑みが零れて再び胸に顔をうずめた。
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