屋上の、唯一のドアが開いた。
オンボロやから、時々風で勝手に開いたりするんやけど、今回は誰かが開けたんやって分かった。
聞こえなくても、見なくても分かる。
「蔵……」
そこには、息を切らした彼がいた。
大好きで大好きでたまらない人。
ウチの、たった一人の想い人。
「ほな、俺はここらへんで」
薮内くんは後ろ姿のまま手を振って、蔵と入れ替わるように屋上から出て行った。
屋上にいるのはウチと蔵。
つまり、二人っきり。
「やっと見つけたで、柚」
ビクン、と跳ねる体。
あぁ、駄目や。
怖がってちゃあかんねん。
ウチには、みんながおるやん。
いつも黙って傍におってくれて、せやけど人一倍心配してくれる謙也。
勇気づけて、励ましてくれる光くん。
親身になって、応援してくれる優衣。
こんなウチを想ってくれて、背中を押してくれる薮内くん。
ウチには支えてくれる人がたくさんおるんやから。
逃げたら、あかんねん。
立ち上がって、呼吸を整える。
ねぇ……、蔵
「聞いてほしいことが…、あんねん」
ずっとずっと前から言いたかったこと。
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