人気の多い場所に来たのは失敗やった。
なんやなんやと野次馬たちが興味本位に集まって来る。
「どっかの女とキスしたてほんまか?」
「…ほんまや」
「なんでそないなことしたん!おまえは、柚が大好きな筈やろう!」
「不意打ちやったんや。
そこを、柚に見られた」
「…っ!なして!なしてそれを柚に言わんのや!」
「言ったところでどうなるんや!アイツは俺を…、嫌っとるんやから」
「二人の間に何があったかは知らんけどな、柚がおまえに直接嫌いて言うたんか?」
「嫌いとは、言われてへんけど」
無理矢理柚にキスして、あんなに拒絶されたんや、嫌われてて当然や。
「勝手におまえが決めんなや!柚の気持ち、何も分かっとらんくせに!」
(!!!)
「俺は柚の隣にいつもいたんや!分かっとる筈や!」
ずっとずっと、柚の横におった。
柚が喜怒哀楽する姿を、誰よりも見てきとる!
「分かってるんなら追いかけろっちゅー話やろ!」
「追いかけて、誤解を解いて、ほんでどうなるんや!」
怒鳴りあいが続く。
外野がなにを聞こうがなにを言おうが、どうでもよかった。
「柚が…泣いてんねん。おまえやって、柚の泣き顔初めて見たやろ?」
「お、ん…」
そういえば、柚の泣いている姿を見たことはない。
さっきのが、初めてや。
「柚はな、おまえがいつも女の子に泣かれて、謝る姿を見てきとるから、」
「そないに泣きそうな顔して…泣かんの?」
「…ウチが泣いたら、蔵が困るねん。今までたくさんの女の子振って来て、泣かせて。蔵は優しいから…心を痛めて来たに決まっとる」
「絶対に泣かんって決めてるんや」
「大好きやから…蔵を困らせたくない」
「どんなに辛くったってな、泣かんねん」
「せやからウチは、泣かない」
- 145 -
← | →