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涙を流して走り去って行く柚を、追いかけることが出来なかった。
踏み出した右足が止まったのは、柚の言葉が蘇って来たから。
「ウチに…もう、近付かんで」
(………っ、)
柚が泣いてるんやって、追いかけなあかんて思うと同時に、また拒絶されるんやないかという不安が襲いかかる。
「あの…蔵ノ介くん」
「堪忍、一人にさせてや」
「でも……っわたし、」
「何も言わんといてくれんか。…頼む」
佐倉は立ち尽くす俺の隣に暫くいた。
「わたし、謝らないから」
「………。」
「じゃあ、また」
なぁ柚、柚は今、泣いてるん?
俺に追いかける資格はあるんか?
俺は無意識に裏庭から歩き出し、人気の多い場所に出た。
柚に、なんて言葉をかければええんや?
余計に柚を傷付けるんやないのか?
俺は……………、
「白石!」
叫び声と共に、剣幕な様子でこちらへ走って来る謙也の姿が見えた。
謙也が息を乱してるのは珍しい。
「どないしたん?」
「どないしたんちゃうわ!ドアホ!」
吠えられて、今にも殴りかかる勢いで胸ぐらを掴まれた。
「柚を泣かせたやろう!なにやってんねんおまえは!」
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