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思わずあの場から逃げてしまった。
二人がおる場所から離れんと、ウチが今にも死んでしまいそうで。
蔵が追いかけて来てくれなかったのは、もう二人が付き合うてるからやろうか。
なんにせよ、蔵がウチを追いかける理由はないんやろう。
前みたいに、追いかけてもらえる関係やないんや……。
「ふっ……ぇ、っく」
涙を拭っても拭っても、次から次に流れてくる。
止まるわけ、ない。
こんなにも、大好きなのに。
(……蔵っ…、)
あの優しい声も、胸をくすぐる笑顔も、広い胸も、甘い唇も。
誰かのモノになる。
「やだよ……ひっく、やだ……っ…ふっ、…くら……っっ」
行かないで。
行かないで、……っ、蔵。
「柚!」
「っ、」
「なんで泣いてるんねん!」
やだ…、泣き顔見せたないのに。
逃げてもきっと、浪速のスピードスターには追いつかれてしまう。
「泣いて…へんし」
「嘘言うなや!なにがあったん!」
「っく…蔵が…」
「!?白石がどないした!?」
「佐倉さんと…き、キスしてた…」
「な……っ、嘘、やろ」
「ふぇ…ぇぇっ…」
「あいつは!どこおるん!」
「佐倉さんと、一緒おるんやない…かなっ、ひっく…」
「柚、ちょっとここで待っとき。
すぐ帰って来るからな」
「っく……謙也…」
ぼやける瞳は謙也が走り行く背中を映していた。
心はからっぽ。
喪失感から、判断力はゼロ。
ウチは謙也の待っとけという言葉も忘れて、行き先もなく歩き出した。
歩くというより彷徨うかのよう。
気力もゼロ。
(こんな世界、どうにでもなってしまえばいい。)
潤む瞳で愛を叫んで
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