早く、早く、早く。
一刻も早く伝えなあかんと思った。
この勇気が消えないうちに、早く。
まずは謝って、そして、そして…。
なんて言えば、上手く伝わるんやろうか――…?
屋上の階段を驚異的なスピードで駆け下りる。
突き放すような真似して堪忍。
伝えるから。
“ごめん”と“好き”を、キミに――――…、
「蔵ノ介くん、花風さんにひどいこと言われたって聞いたよ?」
「ははっ、情報…早いなぁ」
角を曲がろうとしてブレーキがかかった。
この声は……、
(佐倉さんと、蔵)
なに…してんねん。
わざわざ空き教室の前の廊下で、なんで二人で話してんの?
「可哀想だよ、蔵ノ介くん」
「おおきにな」
「わたしだったら、そんな思い絶対させないのに」
「…ちょ、佐倉、」
思わず、見てしまった。
蔵の腕の中には佐倉さんが、いて。
突き放すやろうて思ったけど、蔵はそんなことはせんで。
あぁ、受け入れたんや…って。
その光景が脳裏に焼き付いた。
決断も勇気も、一気に崩れ去った。
そのままヘタリと座り込んで、頭を抱え込んで目を瞑る。
泣いたら、あかんねん。
泣いたら……、あかん。
今、蔵の胸の中におるのは、ウチやない。
違う女の人。
- 132 -
← | →