白兎を追いかけて | ナノ




早く、早く、早く。


一刻も早く伝えなあかんと思った。



この勇気が消えないうちに、早く。


まずは謝って、そして、そして…。

なんて言えば、上手く伝わるんやろうか――…?



屋上の階段を驚異的なスピードで駆け下りる。

突き放すような真似して堪忍。


伝えるから。


“ごめん”と“好き”を、キミに――――…、


「蔵ノ介くん、花風さんにひどいこと言われたって聞いたよ?」


「ははっ、情報…早いなぁ」


角を曲がろうとしてブレーキがかかった。

この声は……、


(佐倉さんと、蔵)


なに…してんねん。


わざわざ空き教室の前の廊下で、なんで二人で話してんの?




「可哀想だよ、蔵ノ介くん」


「おおきにな」


「わたしだったら、そんな思い絶対させないのに」

「…ちょ、佐倉、」





思わず、見てしまった。

蔵の腕の中には佐倉さんが、いて。

突き放すやろうて思ったけど、蔵はそんなことはせんで。



あぁ、受け入れたんや…って。


その光景が脳裏に焼き付いた。





決断も勇気も、一気に崩れ去った。


そのままヘタリと座り込んで、頭を抱え込んで目を瞑る。



泣いたら、あかんねん。


泣いたら……、あかん。




今、蔵の胸の中におるのは、ウチやない。

違う女の人。
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