無理矢理キスをしたんや、俺は。
残念ながら事は重大。…それもかなり。
とりあえずメールも電話もガンガン飛ばしたんやけどオールシカト。
今日の朝練には来たけど、目やって合わせてくれんし、ずっと財前の横におって喋り掛ける隙もくれんし…。
(とりあえず、あやまらな)
柚にひどいことをしたのは確かや。
許して貰えるまで何度も謝ろう。
教室前でそう決心をして、扉をゆっくりと開いた。
大丈夫だ、と。
柚はきっと許してくれると信じて。
真っ直ぐに柚の席へ目が行く。
クラスの女の子に囲まれて、楽しく会話を交わしているよう。
柚が瞳に映るだけで、心臓が跳ねる。
(あぁ…、こんなときまで心臓が反応してしまうんか)
俺はとことん柚にベタボレのよう。
柚が、こっちを見た。
…俺を、見た。
驚いたように、一瞬見開かれた瞳は、やはり悲しげだった。
あの瞳を悲しく染めたのは、誰や。
そう考えただけで、なにか魔法にかかったように動けなくなった。
立ち尽くしたまま、柚を見つめる。
しかし、それもほんの一瞬。
柚の視線はすぐに反らされた。
刹那、俺の心の中の何かが、割れる音がした。
何事もなかったように、再び会話に戻る柚の姿に、このうえない切なさを感じる。
(それでも俺は、謝らなあかんねん。)
- 125 -
← | →