白兎を追いかけて | ナノ





無理矢理キスをしたんや、俺は。
残念ながら事は重大。…それもかなり。


とりあえずメールも電話もガンガン飛ばしたんやけどオールシカト。

今日の朝練には来たけど、目やって合わせてくれんし、ずっと財前の横におって喋り掛ける隙もくれんし…。


(とりあえず、あやまらな)


柚にひどいことをしたのは確かや。

許して貰えるまで何度も謝ろう。


教室前でそう決心をして、扉をゆっくりと開いた。


大丈夫だ、と。
柚はきっと許してくれると信じて。



真っ直ぐに柚の席へ目が行く。


クラスの女の子に囲まれて、楽しく会話を交わしているよう。

柚が瞳に映るだけで、心臓が跳ねる。


(あぁ…、こんなときまで心臓が反応してしまうんか)


俺はとことん柚にベタボレのよう。



柚が、こっちを見た。


…俺を、見た。


驚いたように、一瞬見開かれた瞳は、やはり悲しげだった。


あの瞳を悲しく染めたのは、誰や。


そう考えただけで、なにか魔法にかかったように動けなくなった。


立ち尽くしたまま、柚を見つめる。


しかし、それもほんの一瞬。

柚の視線はすぐに反らされた。

刹那、俺の心の中の何かが、割れる音がした。


何事もなかったように、再び会話に戻る柚の姿に、このうえない切なさを感じる。

(それでも俺は、謝らなあかんねん。)
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