白兎を追いかけて | ナノ



蔵とのファーストキスは、甘かったのを覚えている。


今もキスをしているけど、違う。


糖度は0パーセント。

侵食するような、荒いキス。



それでも、蔵と口付けを交わしているのに変わりはなくて。

嬉しさが込み上げてくる、…筈やった。


「ふっ…、んんっ」


喜びを感じる筈なのに。





















怖い。




無意識に、ウチは蔵を突き飛ばしていた。

怖い。

怖い。


「…柚、」


蔵も怖いけど、一番怖いのはウチの気持ち。


「気まぐれで、キスなんて…せんといて」

キスをしたら、抜け出せなくなる。

純粋な想いが、真っ黒に塗りつぶされる。


蔵が好きやから、誰も喋りかけんで欲しい。


蔵が好きやから、誰も触れんで欲しい。

蔵が好きやから、ウチだけしか見えんようになればええのに。


なんて考えるウチは、酷く滑稽だ。


蔵に対する独占欲を、これ以上高めんといて欲しい。


蔵はウチのモノやないんやから。

そんなこと考えたらあかんねん。


でも、蔵の唇を知ったら止まらなくなった。


蔵はウチのモノやと勘違いしそうなウチが怖い。

蔵が隣からいなくなったら、生きていけなくなりそうで怖い。

やからもう、悪化させんで。

ウチ、おかしくなってまう。




「ウチに…もう、近付かんで」




そう言い残して、涙をこらえてウチは走った。


早く、蔵から離れようと。
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