白兎を追いかけて | ナノ




蔵の足がようやく止まった。

ハァハァと乱れる息を整えながら回りを確認する。


(あ、ここ…もしかして、)


蔵と、キスをした場所だ。

人気のない、ウチらの帰り道。



「ねぇどうしたん?く、」


蔵、と言いかけた言葉は続けることが出来なかった。

何故なら、強い力で壁に押し付けられたから。


「いたっ…」


腕が、背中が痛い。


こんな乱暴な蔵を、ウチは知らない。


目を恐る恐る開けると、そこにいた蔵はものすごく恐い顔をしていた。

合宿の出来事を、つい思い出してしまった。



「彼氏…な」


見下ろすその目が、いつもと違う。


「好きな人、おるんやもんな」

「え……、う、ん?」


気まずいこの空気で、ウチのポケットで携帯が鳴った。

このタイミングで携帯を見ることに躊躇いはあったけど、大事な用かもしれんし。


携帯を取り出して、側面に表示されていた名前は“薮内徹平”。


その文字が表示され、それを見た蔵の表情が歪んでいたことには、気付かなかった。


メールを開き、心臓が大きく鳴った。


“やっぱり俺、花風が好きや”


…バッドタイミング。


今は返信してはいけない。


携帯を閉じて直そうとしたときやった。


――バッ!


取り上げられた、携帯。


内容を確認する蔵を見て、ウチは息を呑んだ。


携帯を覗くことはせんし、ラブレターやって、中身を見ることはせん。

そんな真面目な蔵が。


今。


「なにすんねん…」

「薮内と、ほんま仲良しやなぁ」


見られた。


「べ、別に…!」


なんで、よりにもよって告白メール。


「我慢、出来んわ」


蔵の言葉に身震いをすると、逃げることも出来ずに噛みつくようなキスが、降ってきた。 
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