「別に、ええねんで?」
「いや、アカン。うん、アカンわ」
お小遣いに余裕があるなら、植物図鑑を買ったがええと思う。
有効に使わなアカンやろ。
「このウサギ、柚やん。俺、買ってやりたいわ」
どこまで優しいねんっ!
蔵が引き下がらんモンやから、ウチは見栄を張ってこんなことを言ってしまった。
関係を崩す一言になってしまうなんて、思いもしなかった。
「…ちゃんと、か、彼氏作って、買ってもらうから…蔵に買ってもらわんでもええねん」
それは、地雷やったらしい。
ガラスに映る蔵の表情が見えた瞬間、ウチは恐縮した。
考え込む暇もない。
腕を握られ、ものすごい力で引っ張られた。
「え?あ、ちょ…蔵?」
ありがとうございましたと頭を下げるお姉さんの声も遠く聞こえた。
アクセサリーショップを出ても、蔵は止まらない。
ズンズンと進んで、歩幅について行けない。
進むのは速いし腕は痛いし。
(…こんなん蔵やない!)
一体どうしてしまったんやろう。
ウチ、なにかした?
怒らせてしまったん?
「蔵!ねぇ、蔵…っ!」
なんで返事してくれへんの?
顔だって見えないし、なにを考えてるか分からない。
どう…したんやねん。
(……………蔵?)
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