白兎を追いかけて | ナノ





目を見開き、まるで世界の終わりのように蔵は呆然としていた。


「どうし…たんねん」


口を震わせ、とても心配してくれているのだと伺えた。


「せや。今日の昼ご飯やって、サラダ食べよったやろ。最近苺つっぶつぶポッキーも食べへんし、柚…一体どないしたんや!」


ごっつ一大事のように聞こえるんやけど。

(…大袈裟やて)


「ちょっと…な、痩せなアカン理由があんねん」


「それ以上細なるんか!なんでやねんっ」

「えーっと…、まぁ、色々…」


言えへん。

プリコンに出るからなんて恥ずかしゅして言えへん!


「好きな奴でも…おるんか?」

切なげな声が、耳に響いた。


ドクン、と。

疼く心臓。


「え……っと、」


嘘はつけん気がした。

冗談を言える雰囲気でもない。


「おるんは…おるけど、ダイエットには関係ないで」


そう言うのがやっとやった。


「……そっか」


なんで?
なんでそんな悲しそうなん?

そんな表情の蔵を見たら、胸が苦しくなるんやけど。


早くこの空気を切り替えたくて、膝に置いてあるたこ焼きのパックを蔵から奪い取った。



「せやからウチは食わんで。はい、蔵、口開けて」

「街中で恥ずかしいねんけど」

「ほな、ウチに食べさせようとすな!」

「嘘嘘。柚ー食べさせてやー」

素直に口を開く蔵が可愛い。


あぁ、またや。

またあの感覚がする。



「んーっ、エクスタシー」


たこ焼きのタレが付いた蔵の唇に、手持ちのティッシュで拭ってあげる。

きゅんと、胸が鳴る。

前はそれだけだったのに。


何か汚い気持ちが入って行く。


それはとっても、黒いもの。
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