白兎を追いかけて | ナノ




再び見つめ合って数秒。

蔵の左手によってくいっと上を向かせられた。


蘇るのはあの日のキス。


(…学校やん、ここ。)


緊張感と罪悪感が襲って来るにも関わらず、ウチは目を瞑っていた。

廊下に座り込んでいるため、足はひんやりと冷たい筈なのに、熱い。


また甘いキスに、溺れていくんだ。

蔵になら、どこまででもええなと、心が言っていた。



あと三センチ。

唇が重なろうとした瞬間やった。



――バンッ!


「ドラム叩きすぎて喉乾いたわー!よっしゃ青汁買い行くでーっ!」


勢いよく音楽室から出て来たのは今世紀最大の空気読めない男、謙也。


それはもう、夢から現実へ一気に引き戻された。

すぐさま距離をとるウチら。


隠せないのは赤らんだ頬。


「お、白石に柚やん!どしたんか二人して座り込んで」


「…………別に、なにも」


素っ気ないながらも返事をした蔵は、未だに動揺しているウチとは違って冷静やと思った。


「二人して怪しいっちゅー話!おまえらもしかしてちゅーでもしてたんか!わっはははははは!」


「…………。」

「…………。」


当の本人は冗談百パーセントで言ったつもりやろう。

ウチらが否定もせずにただ顔を赤らめたことに、目を見開いていた。


「………え、」


信じられないと、アホ面で。


(謙也の、アホ。)
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