再び見つめ合って数秒。
蔵の左手によってくいっと上を向かせられた。
蘇るのはあの日のキス。
(…学校やん、ここ。)
緊張感と罪悪感が襲って来るにも関わらず、ウチは目を瞑っていた。
廊下に座り込んでいるため、足はひんやりと冷たい筈なのに、熱い。
また甘いキスに、溺れていくんだ。
蔵になら、どこまででもええなと、心が言っていた。
あと三センチ。
唇が重なろうとした瞬間やった。
――バンッ!
「ドラム叩きすぎて喉乾いたわー!よっしゃ青汁買い行くでーっ!」
勢いよく音楽室から出て来たのは今世紀最大の空気読めない男、謙也。
それはもう、夢から現実へ一気に引き戻された。
すぐさま距離をとるウチら。
隠せないのは赤らんだ頬。
「お、白石に柚やん!どしたんか二人して座り込んで」
「…………別に、なにも」
素っ気ないながらも返事をした蔵は、未だに動揺しているウチとは違って冷静やと思った。
「二人して怪しいっちゅー話!おまえらもしかしてちゅーでもしてたんか!わっはははははは!」
「…………。」
「…………。」
当の本人は冗談百パーセントで言ったつもりやろう。
ウチらが否定もせずにただ顔を赤らめたことに、目を見開いていた。
「………え、」
信じられないと、アホ面で。
(謙也の、アホ。)
- 113 -
← | →