――タッタッタッ!
走る、走る、走る。
よし、話を戻そう。
千歳という多大な邪魔が入ってしまったわ。
蔵に会って、みんなの蔵になるのは嫌やって伝えたい。
伝えたからってどうにかなるわけやないけど、我が儘なのは分かってんけど。
伝えたい、伝えたい。
もうすぐ、音楽室や。
薮内くんから貰った手紙はスカートのポケットの中。
ちゃんと、用事が終わったら読むから。
絶対絶対絶対、読むから。
角を曲がって、突き当たりに音楽室。
もうすぐ蔵に会える。
胸が高鳴った、瞬間。
「花風さん待ちぃーやー!」
スカートをひらりと揺らして、現れたのは黒髪ショートの少女。
…えっと、あの、堪忍。
「…どちらさま?」
そして限りなく邪魔や。
「わたしは三年四組 笹山恋実(ささやまれみ)や。花風さんに折り入って頼みがあるんやけどええか?」
「今むっちゃ急いでんねん」
「実はな文化祭のことなんやけど、」
……ウチ今むっちゃ急いどるって言ったよな。
「文化祭の二日目にメイクアッププリンセスコンテスト、略してプリコンがあるんや」
「あー…なんか聞いたことあるわ」
四天宝寺の文化祭恒例イベント。
これはエントリーした人がモデルを選び、いかに変身出来るかを競うもの。
エントリーした人のメイクの腕やセンスが問われるのだ。
「わたしな、それに出ようと思ってん」
「ほぉー頑張り。ほな」
ひらひら〜と手を振って横を通り過ぎようとする。
「待ち!」
「…まだなにかあるん」
「頼みあるて言うたやん!」
「えーなんやねん」
「その適当さ、ものっそいムカつくわ」
「ウチ行かなあかんとこあるねんから早よ言ってー」
ウチもウチなんやけど、初対面でムカつくとか言って来るなんて大物やな。
気ぃ合いそうや。
今やなかったら絶対お友達になってたやろうなー。
「モデル、やってくれへん?」
…………え゛。
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