白兎を追いかけて | ナノ


「…?どないした?」


薮内くん、みんな見てるで。

ちょっと…恥ずかしいわ。


「俺が二組行こうて思ってたんやけど、ちょうどよかったわ」


え?ウチんクラスに?

「手、出して?」

言われるがままに素直に手を出すと、折り畳んだ紙を握らされた。


「手紙?」

「せや。ラブレター2号や」

「ぶはっ、2号てなんやねん」


やけど、その手紙はウチの手のひらをほっこりと温かくしてくれた。


「さっき走りよったけど、急ぎの用でもあるん?」

「あ――…、うん、まぁ」


一応、と苦笑いしながら続ける。


「ほんなら、その用事が終わったら手紙、読んでくれんかな?」

「え?も、勿論!」


読むに決まってるやろ!

ほんま…謙虚やな、薮内くんは。


「ほな、またな!」

「おん、待ってるで」


薮内くんに別れの挨拶をして、またメロス(謙也)のように蔵の所へ走り出す。


(…って、あれ?)


走りながら疑問に思った。


薮内くん、今、待ってるでって言ってた…よね?

待ってる?…なにを?


その言葉の真意は、数時間後、手紙を開いたときに知ることになる。

薮内の方はクラスメートに一通り冷やかされた後、ベランダで一人、大好きなあの子とのやり取りを思い返していた。


「あんな輝いた目して…、分かりやすいわ、ほんま」

(向かう場所は他にない)


遠くを見つめて、溜め息交じりに一人呟いた。



「…白石、か」


蚊のなくような小さい声は、薮内本人にしか聞こえないほど弱々しかった。


(…堪忍な。俺の悪足掻きを許してや)

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