一刻も早く蔵の所へ!
廊下を猛ダッシュするウチはまるでメロスのよう。
(…メロスは謙也か)
しかしその道のりには、数々の足留めという名のトラップが待っていたのです。
(放課後やていうのにむっちゃ人残っとるなぁ。)
山車作りやら衣装作りやらで大変そう。
「おい千歳!おまえ何寝てるんねん!テニス部の方に行かんでええんか!?」
「俺はもうきつかばい〜」
「いや、おまえなにもしてへんやろ」
…ごっつ楽しそうやな。
(っちゅーか千歳、練習行け)
千歳は毎度の如くサボっているんか。
あー…、早よ蔵ん所に行きたいんやけどな。
サボリ中の千歳を放って置くわけにもいかんし――…。
「…どないしよ」
千歳の教室の前で立ち止まる。
一組は、薮内くんのおる教室や。
なんとなく入りづらい。
せやけど、千歳が来ないことに蔵たちは困ってる筈や。
やっぱここはウチが喝を入れてやらなあかん。
よっしゃ、やったろ!
「千歳!なにしてんねんーっっ」
ウチに神隠しは効かんで〜!
勢いよくドアを開けて突入。
他クラスのくせになに堂々と入って来てんだよ的な感じで視線を浴びる。
しかーし、そんなん今のウチには関係ない!
「おー、柚!俺の教室に来るとか珍しいこともあるったいねー」
アホ、なんで暢気にヘラヘラしてんねん。
「千歳がおらんとみんな困るやろ。
練習行きぃや〜」
「よかよかー。
白石たちがなんとかしとってくれるっちゃなか〜?」
「な、なに言うて――、」
「スーパー少女やん!」
「わ〜!生生!花風さんやんっ」
…およ?
あれ、え?
輝きの眼差しを寄せてくる一組の人々。
ウチったら有名人?
「俺がサボっとったけんがら大好きな柚が来たたい〜。俺に感謝すったい、薮内」
「声でかすぎや、アホ」
ぎゃん。
千歳の横には薮内くんがいた。
いや、なんか…二人並ぶとごっつ絵になるわ。
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