白兎を追いかけて | ナノ


一度離されて、また重なる。


角度を変えて何度も何度も。

甘い熱に溶かされるよう。


「…ん、」


抵抗なんて、出来るわけない。

恥ずかしさと嬉しさが込み上げる。


蔵とキスするなんて、念願、なんやから。

重なる唇に意識は集中していて、無意識に蔵のシャツを掴んでいた。


触れてしもたら、どこまでも好きが増えてしまうことは分かってる。


後戻りは出来ん。



蔵の唇に、甘いキスに酔いしれた。





唇が離れて、蔵を見上げる。

そこにあったのは悲しげな顔やった。


「ごめん、な」


なんで。

なんで謝るん。


酔いも一気に冷めた。


蔵も薮内くんも、どうしてこう…悲しませてしまうんやろう。


ごめんって、なにが?

…なにがごめんなん?


ウチは今、幸せなはずなんに。


蔵はなんで、キスしたん?


ごめんの理由を、教えて。



唇に残る熱は、さっきの出来事を物語っていて。

やけど正面には悲しげな蔵がいて。


悲しむことも喜ぶことも出来ない、ウチがそこにいた。
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