白兎を追いかけて | ナノ






いつもの帰り道が、ひどく長く感じられる。

蔵はなに一つ喋らんし、空気が重い。


「ま、待たせてしもて、ほんまごめんな」
「…別に、ええねんで」


……重すぎる。

(うぅっ、めげるなウチ!)


「きょ、今日の宿題数学出たやん?ウチ徹夜決定やんーみたいな!かっこ笑いーみたい、な…」

…ウチ、痛すぎる。


(蔵、怒ってるんやろうか?)

ウチが一番に怖いのは、大好きな蔵に嫌われること。


軽い女って思われたやろうか?
ウチんこと、軽蔑したやろうか?


「蔵ノ介…っ」


シャツを掴んで体重を預ける。


ねぇ、言うてよ。
なんでそないに悲しい顔してんねん!


「薮内に、抱き締めてええって言ったんは…ほんまか?」

「……え、」


それは薮内くんのお願いを聞いてやらなあかんっちゅー、同情というより償いの気持ちから、やけど…。


「ほんま、や」

「………そか」


えっ、と…。


すごくすごく蔵が傷付いた表情をしてんのは、分かる。

こうさせてんのは、…ウチ?

ウチが、蔵を悲しませてる。



「柚、いうこと聞いてくれるんやったな」

「あ、うん。勿論」


そういえば、そんな大事な賭けをしてたわ。
衝撃的なことがありすぎて、忘れてた。

「なんでん、ええで!
パシリ一週間でもなんでも…!」


「抵抗、せんでや」



(………え?…なに?)


蔵の瞳がウチを捕らえる。


その真剣な表情に、言葉を失った。

頬に触れる蔵の左手。


包帯の、感触。

近付く、蔵の顔。


その距離が三センチになって、ようやく気付いた。


(あぁ…もしかして、)


重なった唇。

初めての熱に、ウチは目を瞑った。
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