グラウンドに残されたのは俺と薮内の二人だけになった。
お互い、睨み合ったまま。
着替え終わって校門に向かっていると、柚と薮内が二人で話している姿が見えた。高まる嫉妬心を抑えながら二人に近付くと、薮内が柚を抱き締めた。
心臓が止まる思いを味わった。
俺の大事な大事なモンが、汚されよるようやった。柚は俺のモンや。
抱き締めてええのも、俺だけや。
「柚になにしてくれてんのや」
「抱き締めたらあかんの?」
微かな沈黙が流れる。
なんでコイツ軽く言うんやねん。
怒りが高まり、俺はギリッと歯を食いしばった。
「薮内、殴られたいんか?」
握った拳は爪が食い込んで、出血しそうなくらい力が入っていた。
「はっ、なに言うてんのや。花風に彼氏はおらん、花風の自由や」
「せやけど柚、嫌がってたやろ」
目が離してって訴えてた。
今にも泣きそうな表情をしてた。
どう見ても一方的に……!
「抱き締めてええよって言ったのは、花風なんやで」
「なっ…!嘘言うなや!」
柚がそないなこと、言うはずがないやろ!
「嘘は言わんで。なんなら、花風本人に確認してみたらええやん」
俺が声を掛ける前、柚も抱き締めているように見えたのは、見間違いやなかったんか?
「っ…。柚になに言うたん」
「抱き締めてええか?って聞いただけやで」
嘘や、…ありえへん。柚から直接聞かんと、信じられんわ。
「なんや白石、こん前俺が花風呼び出した後、花風と仲良く抱き合っていたらしいなぁ」
「それがなんやねん」
「ほんなら俺と花風が抱き合っててもなんら可笑しないっちゅーことやろ」
「…っせやけど!」
「自惚れんなよ白石。花風は誰にでも優しいんねん」
嫉妬が最高潮に達する。
同時に悲しみも押し寄せた。
おまえに言われんでも分かっとるわ。
柚と俺の気持ちが一緒やないことぐらい。
柚が誰にでも優しいから、ちょっと夢見てただけや。
…ちょっと甘えていた、だけや。
「それでも柚は、渡さん」
「それは花風の自由や」
胸がきしむ音がした。
柚がひどく遠い。
この手では、届かない気がした。
届かないならば、いっそのこと……。
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