ウチは今、薮内くんと抱き締めあっていて。
それを蔵が怖い表情で見ていて。
冷や汗が流れた。
(見られ…、た。)
凍りきったこの空気。
蔵に誤解されるのは、嫌や。
早よ離れな…!
薮内くんを押しのけようとするけれど、薮内くんはピクリとも動かん。
むしろ包み込んだまま。
「なにしてんねんって、聞いてんねんけど」
「なにって見ての通りやろ。抱き締めあってんねん」
待って、待って薮内くん!
必死に薮内くんの胸板を押すけど、抱き締められた体勢のまま。
「ここで花風離さんやったら、花風は白石んところに行かんのやろうか」
「や、薮内くん…っ!」
耳元で呟かれた後、背中に回る腕の力が一層強くなり、窮屈になる。
蔵は今、怒ってるんやろうか。
悲しんでるんか、平然としてるんか?
なんにせよ、誤解されたくないねん。
「…嘘やて。こないことしても、花風泣かせるだけやろうからな」
抱き締められていた腕がパッと引かれ、ウチは薮内くんの胸を押しのけようとしてたこともあり逆方向へ体勢が崩れた。
不安定な中、腕を引かれた。
「あ……蔵、」
「柚、着替えてき」
「うん…」
重い空気は間違いない。
ウチは逃げるように校舎へと走り出した。
この出来事が、夢であると願いながら。
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