白兎を追いかけて | ナノ




「そない悲しい顔したらあかんて。白石の横におるから花風が輝いてることも、ちゃんと分かっとるから」

「ほんま、ごめん…」


「せやけど、やっぱり諦められへんみたい…なんや。往生際悪いわな、俺」

薮内くん……。

「…堪忍な」

「謝らなあかんのは、ウチやねん」


ただ、好きなだけでは実らない。想い合うって、とっても難しい。
偶然とか、必然とか、かっこよく言えば運命だとか、なにかがつなぎ合わせてないと、二人は別々の道を歩むから。


「…花風はやっぱすごいわ」

「っ、…え?」

「スーパー少女て言われるわけも、みんなに好かれるわけも、テニス部の奴らに愛されるわけも、よう分かるわ」

「ウチなんか、大層な人間ちゃうで」


スーパー少女なんて呼ばれるけど、中身はどこにでもいる女の子やねん。


「みんなの視線を惹かせて、それで見下すこともせん。同じ視線からどんなヤツでもしっかりと見てくれる…とびっきりええヤツや」


買いかぶりすぎやって。
百歩譲ってそうなのは、薮内くんがええ人やからで。


「俺、諦めるよう努力するわ。せやから一つ、お願い聞いてくれへん?」

「うん。なんでん聞くで」


薮内くん…、薮内くんには、ほんまに幸せになってほしい。
誰か、ウチよりずっとずっと素敵な人を見つけて、笑っていてほしい。

「ちょこっとだけ、抱き締めてええ?」


薮内くんの笑顔、大好きやねん。元気が出るんや。こっちまで、嬉しなってしまうんも、薮内くんの笑顔の力なんかな。


「ええよ」


ふわり、と大きな腕に包まれる。


蔵より少し小さな体。
蔵と違う香り。

やけどやっぱり逞しくって、男の子なんやって実感した。


薮内くんの心情を考えると胸が痛い。
ウチに出来るのは、たったこれだけ。


今だけやと自分に言い聞かせて、薮内くんの背中に手を回した。

















「自分ら、なにしてんねん」


低い声に、血の気が引いていくのが分かった。
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