いつか、誰かに言ってしまうん?
好きやって、大好きやって、言ってしまう日が来るん?
ウチやない、知らない誰かに。
我が儘やって分かってる。
せやけど嫌や、嫌やねん。
蔵のシャツの裾をぎゅっと掴む。
「どうしたん?…柚?」
どこにも行かんといて。
なぁ、蔵、お願いやねん。蔵の胸板に額をつける。
大好きな人の体温を感じて、安らいでいくのが分かった。
「今日の柚は、甘えん坊さんやな」
「うん…」
今の関係がずっと続くなんて思ってへん。
いつかは変わってしまうんも、分かっとる。
せやから、今だけは…今だけはこんままでおらせて?
いつか絶対伝えるから。
もう少ししたら、ありのままの気持ちを伝えるから。
薮内くんにも胸張って報告できるよう、ウチ…頑張るから。
蔵の両手がウチを包む。
あ、やば。
ここ廊下やんか。
(でも気持ちええし…)
…まぁええか。
「…で、薮内の告白は断ったんやんな?」
「…え、えっと」
ずいっ、と近付く蔵の顔。
「な?」
…その笑顔が無駄に怖いんやけど。
「振ろうとしたんやで。…せやけど、なんやかんやで………保留?」
「………。」
「…てへ?」
「…てへ?ちゃうねんけど」
「お、お友達に…な、なったんやで」
あれ?
蔵、笑ってるんよな?
引きつって、へんよな?
「(薮内徹平、な。しっかり覚えたで。)教室に財前来ててるで。行こか」
「もしかして謙也、一人でからかわれ倒されてんやないのー?」
「大当たりや」
「可哀想やな、戻ったろ」
歩き出したウチらの距離は、人一人分空いていて。
いつかこの距離がなくなってしまえばいいのにと心の底から深く願った。
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