白兎を追いかけて | ナノ

―…薮内くんと別れてトボトボと廊下を歩く。


薮内くんの告白には驚いたけど、それ以上に自分の弱さに気付かされた。

ウチはこのままでええんやろうか?

どの女の子よりも蔵の近くにおるから、告白せんでもええやろって思っとるウチがおる。蔵が特定の女の子を作らないから、安心しとるウチがおる。


もし蔵が彼女を作ったら?四天宝寺で一番にモテるんやから、いつ出来てもおかしない。

そんときウチは、泣いて、想いを伝えんかった今の自分を恨むんやろうか。


臆病な、今のウチを。



「柚」


愛しい声が、風に乗って聞こえた。

黒く濁ったモノが渦巻くウチの心を、静めさせてくれるような、優しい声。


「く……ら、」


廊下の壁に腰を預けて腕組みをする蔵がそこにはいた。


声が震えて、泣きそうになったことは否定できない。
やって、下唇を噛み締めて堪えるウチがここにいるんやから。


「…なにしてるん。こない場所一人でおったら、ファンの子に囲まれるで」


モテるんやから、蔵は。

…いつも思うねん、モテること自覚してへんやろ。


「柚を待ってたんや」

「……っ、」


あぁ、もう駄目やて。

蔵は知らんのやろ。

蔵がこないに優しいから、ウチはまた甘えてしまうんや。

蔵はとびっきり甘く優しい笑みを浮かべて、ウチに言った。


「おかえり」


言葉にするなら、極上。


心にずきゅん?


あぁもう、とりあえず。

ウチは蔵が大好きや。

好きや好きや、大好きや。


胸いっぱいの想いを、君へ。
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