まぐまぐ(烏城)


 いつもと同じ一人鍋なのに味がしないのはどうしてだろう。味付けを間違えたのだろうか。ひとくち、ふたくち、次々と口に運んでみたけれど、味気ないのは変わらなかった。

 ああそうだ。一人で食べる鍋にしても、見ていてくれるひとがいなければ美味しくなんてないはずだ。
 
 長い黒髪を伸ばしたなんとなく怖い雰囲気の女の人と一緒に、どこかに行ってしまった。いつもならすぐ帰ってきて、また金吾さんとはぐれてしまいましたよ、なんて笑ってるのに。

 見ていてくれなくてもいい、この城にいてくれれば、彼の帰る場所がここなら、それだけでこの鍋はきっといつものように美味しくなるから。だから

 お椀の中のつゆを飲み干す。なんだか少し、しょっぱくなったように感じた。
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