ノキシノブ(信光)
私は生まれてくる性別を間違えたようです。
光秀が低く静かにつぶやいた言葉は、そぼ降る雨の音にかき消されたかに思えたのだが。
彼の隣に腰を下ろしていた魔王が、そうだなと頷いた。光秀は少し驚いたように、信長を振り返る。
「貴様の見目は、男にしておくには惜しいものがある」
なんだ見た目の話か。何処も女らしいところなどないと思うのだが。長く伸ばした髪と、少し痩せ型であることくらいではないのか。
「お褒めに預かり光栄です」
「褒めてなどおらぬわこのたわけが」
光秀が返すと、信長がそれを一蹴した。こんなやり取りも彼らにとっては当たり前であり、普段は一々気に留めたりしないのだが。
男にしておくには惜しいということは、私が女であればあるいはそんな未来もあったのかもしれない。光秀はなんとも言えない気持ちになった。もどかしくて、今すぐこの場を立ち去ってしまいたいような、主の顔を見ていたくないような。
こんな気持ちになるとき、私は女に生まれるべきだったのかも知れないと思うのです。依存、憧憬、思慕の念…。それらを一語で片付けるために、女に生まれるべきだったと心から後悔するのです。
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