「見舞いだ」


本当に来やがった、いや、来てくださいました。石田君。


「西瓜かね、メロンでも持ってくるかと思ったのだが」
「ねえ兄さん一生のお願いだから遠慮と謙虚という言葉について一晩考えた挙げ句猛省してくれないかな!‥ごめんね石田君、上がって!」


本当に生徒を愛している気持ちが微塵も感じられない。腐っても教頭の癖にだ。
面白くない、と言わんばかりの顔でわたしが石田君にスリッパを用意しているのをみると、さっさと書斎に入ってしまった。


「果物をどこにおけばいい」
「あ、私持つよ」
「‥病人に持たせるか。冷蔵庫に入れておく」
「ちょっ、だめ!」


私が差し出した手を避けると、制止に眉をひそめながら冷蔵庫を開けた。ああ、とめられなかった。案の定中身をみた石田君の顔はひきつっているというか、何というか。ああこりゃあ誰でもそんな顔するよね。

だって徳川マークの栄養ドリンクやら健康食品やらがぎっちりみっちり詰まっているから。


説明しよう!家康くんのお家は全国でも有名な食品会社なのだ!
だから金持ちなの!ずっこいよね!






「家康ぅうううう!!!!!」
「おっおっ落ち着いて石田君!そうだ西瓜は今食べよう!ね!あっほら勉強わからないとこあるんだーわたし!食べながら教えてほしい!」

「‥‥今か」
「ウンウン」
「‥‥つまりそれは家康のものより私のものが重要だということか」
「ウンウン‥うん?うん、‥‥うーん?」
「はっきりしろ!」
「あっはい!すみません!大好きです西瓜!」
「‥。‥包丁と教科書を持って来い」

「‥‥‥‥はあい」


腑に落ちない顔をしていたが、まあいいや。しかし若干機嫌が悪くなったことに変わりはない。くそ、家康くんさえこんなことしなきゃ。面倒な、‥。
云われた通りに包丁を渡してから、部屋から教科書を持って来る。戻ってきたころには西瓜は幅差もなく綺麗に切られて、いつの間にか出された大皿にのせられていた。その脇には小皿に幾つか小さめに切られたものもある。


「じゃあ、こっちの机で。」
「その小皿を持って来い。貴様の分だ」
「え、」
「喰い易くした」
「あ、ありがと‥う」
「‥ああ」
「石田君は食べないの?」
「‥貴様が喰いきれない分を貰う」


そういえば石田君は少食だと聞いたなと考えていると、始めるぞ、と、彼は目も合わせずに言うから、わたしも急いで席についた。
普段兄さんしか座らない席に石田君が座っているのはどうも不思議な感じがする。まるで自分のものにでもなったかのような擬似的なものを、勘違いをしてしまう。

(口の中で淡く広がる西瓜は甘い。)


「ここは大過去、過去形と続くと文脈に沿う解答になる」
「うん」


目の前にいる君は優しい。


「もし英作文がきたら」
「‥きたら?」
「諦めろ」
「諦めんの!?」
「応用は棄てろ。基本で取れば赤点は免れる」
「ああ‥うん」
「出来ればやれ。自分を理解した上で時間を裂くか見定めろ。」


目の前にいる君は、わたしをよく理解している。
私があまちょろい人間で、逃げるか人に頼り切ることでしか状況を打開できないのだということを。
そんな君は、私を好きになるなんてバカなことは有り得ないはずないのだ。
そしてわたしも、君を好きだなんて勘違いをしてはならない。


「もう終わりか」
「うん、ありがとう」
「ああ」
「石田君」
「何だ」
「三成君て、呼んでいい」


それなのにわたしは、また君に近づこうとした。


20120820

完結です取りあえず
もやっと!
二部いきます