我の友人は片方の手で数えられるほどしかおらぬ。いや、我はそれで満足よ。理解のある聡い者たちばかりよ。皆。

我はよく図書館に行く。そこにいつも居るのは我と同じ年、同じ組に属している、あの松永久秀の妹。やつは特に聡い。人の使い方を心得て、あたかもそれは自分が希っているように思わせる。だがそれは事実、周りの者が皆やつを放っておけぬ故。やつは一人でも生きてゆける。生きてゆけるし、その力もある。
それを総て、己が気付かぬうちに行うのだ。全く、厄介な女よ。厄介な。


「やれ、漢字が違う」
「‥‥」
「その欄に‥本能寺は来ぬよな。そこは奈良時代よ」
「‥」
「‥ヌシは時系列、という言葉を知っておるか?」
「うるさい!日本史苦手っていったからさ!わたし!」
「‥まさか‥此処までとは」
「北条と足利の区別がつかない。明治維新?なにそれ美味しいの?なんで仏像って同じようなものを幾つも作る?」

「‥‥説明してやろ」


どうやら今回は一番酷い。他の科目も凄惨なものであったが、日本史は、見られぬ。空欄埋め方式では答えが埋まらぬ。時系列は滅茶苦茶よ。酷いところは固有名詞が違うものになっている。酷い。酷すぎるわ。


「‥この欄の隣の三好さん、とは何ぞ」
「あれやった人、ほら、徴兵?なんか顔が隣の三好さんに似てるから」
「ヌシが指したのは源頼朝よ、‥答えが見たままとは。次いで徴兵は明治。‥すまぬ、問うが‥やる気はあるのか?」
「あるよ」
「さよか」


さて、困ったコマッタ。
流石の我も手の施しようがないほどよ。これはこの科目より他に賭けたほうがいくらか希望があるように見える。提案してみる価値はある気もする。


「日本史を早々に切り上げ他の科目に力を入れたらよかろ」

「え?やだよ。」

「‥なにゆえに」
「せっかく教えて貰ってるんだから、頑張らないとねー、‥あ、もしかして嫌?見捨てる?負け認めちゃう?」


「‥するわけなかろ、ヒヒヒッ、ヒヒヒッ‥さぁ、手を動かしやれ。付き合ってやろうよな、とことん」


「あー!もう!漢字難しい!」
「ほれほれ、早よう覚えやれ」


やつに何か提案を持ちかけるのは門違いであった。たしかに、やつは負けず嫌いであった。どこか三成に似通うていた。ただ、どうにも不器用よな。もう少し考えて出来れば、良いがなァ。誠に‥。


「‥霧のように、掴みやらぬよな」


しまった。いま何をいった。我は。


「なにそれ?最近天候になぞらえてなにか言うの流行り?家康くんもわたしと太陽がどうのって言ってたし」
「‥徳川が、そのようなことを?」
「うん。無理。大谷くんそういうの向いてないからやめた方がいいよ。
まだ罵ってくれる方が心穏やかに過ごせるし」
「‥まあよかろ。変わった癖よ」
「ま、大谷くんほどじゃないけどね」
「三成も、真田の所のも、ナカナカ」
「佐助くん?彼は普通じゃないかな」
「‥‥いいや」


そう。興味があるのは三成だけではない。皆ヌシと話し、ふれる度に引き込まれてゆく。罪つくりよな。そんな罪作りなヌシに、まるで底無し沼のように、沈み込んでゆく者が有るという事実を、そして我がヌシを掴みとれぬ事実を、掴みたいと思ったことを、死ぬまで知らずにいるのであろ。面白い、そして教えてもやらぬ。


(英語はどうした?)
(明日石田くんに教えてもらえるよ)
(間に合ったか、つまらぬ、ツマラヌ)(つるすぞツタンカーメン)


20120722