なぜか最近になって、図書館内はいつにも増して人が入っていた。この学校は設備だけはやたら整っており、この図書館も例に漏れず、勉学に励むものから惰眠を貪るものまで広く受け付ける、といった仕組みであるからか。(まあ、要するに勉強しないやつとするやつで分かれているよって話。)
因みにわたしはどちらかといえば、勉強嫌いなタイプだ。ならなぜ学びの場を進路に取ったかって?‥そりゃあなた、学生ほど環境から休みや時間に恵まれている立場なんか存在しないからに決まってる!永遠のstudent、悪くない。伊達みたいな発音、良くできました!あっついでに今いいアイデア浮かんだ。次に撮りに行く場所のテーマ。私は写真が趣味なのだ。


「ヌシは相変わらずの職務怠慢ぶりよな」
「あ、大谷くんだ。何しにきたの?」
「返却よ、返却。我はヌシと違って本を読むのよ」
「今日も絶好調大谷くん、流石は机とお友達しながら学年上位の成績をお納めになるだけあるね!」
「ヌシもな、可愛げのカケラも無いその減らず口、噤ませたくなる、ヒヒヒ!」


アイデアをメモしたところでわたしに会話をふっかけてきたのは、隣のクラスの大谷くん。
図書館通いの常連だ。そしてわたしが図書委員の当番を努めている水曜日から金曜日には必ずと言っていいほど現れてはわたしに嫌みのひとつでも吐き捨てていく。非常に嫌な奴である。けれど嫌いになりきれないのは、奴がわたしを嫌いではないからだ。そう、大谷くんはただわたしをからかっているだけらしい、のだ。それを知ったことについて語るには、彼の友人である、


「おい、本を借りたい」

―――石田三成、この生徒の存在は欠かせない。


「さっきまで大谷くん来てたよ」
「刑部と入れ違いか」
「うん」
「貴様、また刑部と詰まらん掛け合いでもしているのだろう」
「あ、わかる?」
「下らん。」
「わたしもそう思う。‥はい、返却二週間後」
「ああ」
「‥ねえ石田くん」
「なんだ」


「‥‥‥最近どうして来館者数増えたのか分かる?」

「‥‥‥‥」


えっなにその『こいつアホなんちゃうの』みたいな目!普段から厳しい眼差しがさらに鋭くなって、もうわたしのガラスのハートが不燃物のゴミの日行きになりそう!大谷くんにこんな目されたら腹立って正拳突きしたくなるのにね。ふしぎ!


「世間知らずの貴様に教えてやる」
「ついに罵声が音声に昇華しましたね」


「テスト期間が迫ってきているからだ」


what?テスト期間?


「あ‥ああ、あれね。うん、あれ」
「‥まさか本当に知らなかったのか」
「ままままさか!!しってた!!今言おうとしたよ!」

「そうか。なら前期の考査の英語が文法と長文が分かれる上に70点以下追試験という話も知っているだろうな」




「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥え?」

「貴様!嘘を吐くな!」
「ごごごごめんなさい!!知りませんでした!無知ですみません!」
「‥認めるなら良い。私は嘘は大嫌いだ」


‥‥知っている。
石田くんが嘘が大嫌いなことくらい。けれどここで知ったかしなかったらわたしはいつ知ったかぶるのか。大谷くんにならまだ馬鹿さらしても良い。けれど石田くんには。







(――刑部を知っているか)
(ああ‥あの包帯の?)
(私の友だ。最近変わった図書委員がいると言っていた)
(それが‥なにか)
(刑部は、貴様を気に入ったらしい。人間が出来た奴だと言っていた)
(‥‥え?嘘でしょ?)

(下らん嘘は好かん。‥私も貴様の本質を知りたい。刑部が認めたのだからな)








――なぜかあまり、弱みを見せたくない。強烈な出会いがそうさせているのか、それとも彼という人間がそうさせるのか。



「いいか、私は言ったからな。善意を無駄にするな!」
「うっ、うん!ありがとう!ありがとう!」

「――Shut up!さっきから館内に丸聞こえだ、お前らの声!」

「伊達の声も清々煩いけどね!」
「そうだな」
「えっ?あ‥悪ぃ」
「分かればいいよ、ね?」
「ああ、仕方がない」
「いや違う、wait!!何で俺が悪いみたいになってんだ!」
「流れ察せよ。次回に繋ぎづらくなったじゃん」


―――かくして、少し出遅れて私のテストへの修羅場週間が幕を上げたのである。

20120721