「眩しい」


第一声がそれだった。



「お前が見たいって言うから来たんだろ、此処」



一面に広がる秋桜、まだこの地球にこんなに汚染されてない場所があったものなのかと、綺麗さに俺も眩しい位だった。俺にしてみればこんな純白な世界は糞食らえ、とでも吐くか、どうやら植物に癒やしをあやかるよりも都会の裏路地や人間の垣間見ゆる汚い部分の方が俺を奮い立たせる。こんな所は及びではない。



「葛西さんに感謝、だろ?」

「うん、有難う」



ポケットに入っている煙草を取り出してみれば、隣で訝しげに扇ぐ仕草を見せる。まだ吸ってもいないというのに、諦めて渋々しまえば口端に弧を描いた。


「きれいだね」

「だな」

「花とか好き?」

「…俺が花好きって、気持ち悪くねえか」

「気持ち悪い」

「…」

「似合うよ」予想外の返答に表情に困った。お前の方が余程似合っているに違いない、ふと遠くを見つめる仕草に目を取られてしまう程にこいつはいい女だと思う。そして、余りにも綺麗すぎた、汚すには畏れ多い程に綺麗すぎるまるでこの花畑のようだ、と。



「あ…花むしった」

「ま、見てなァ」



制止を聞かずにがくまで残した花を奴の髪にさした、白い秋桜が黒髪によく栄えて見立てどおりになる、ああ汚してやりたい。



「…葛西おじさんは今年で幾つだと思う?」

「…41」

「歳の差は23だな」

「私のお父さん39だったよ」

「火火火っ、なら俺は親父より年上の男か」



耳に軽く触れながら距離を縮める。髪を耳にかけて、塞ぐ様に額に口付けをしてやった。年甲斐もなく何を、とも思う。だがそれだけこの小娘に入れ込んでいると実感するのだ、きっと俺は間違いなく、この存在者に意義を感じている。



「背徳的だ、だが悪くねえよ」
「後ろめたい?」

「ちっともだ」

「なら背徳的なんて言わないで」

「もう言わねェさ」

「、うん」

「寧ろ勃つ」

「…………………」

「冗談だ」

「冗談なの?」

「それも冗談だ」

「…回りくどい」

「亀の甲より年の功、てな。特権だ」



髪を梳いて、花を潰した、

20090813



pict:maria