「う―さみさみ」
「オヤジ臭いからやめなさいそれ」
「だって寒いもんは寒いからさあ」
帰ってきて早々に、ランスの部屋にあるホットカーペットの上に寝そべってごろごろしていると、わたしが脱ぎ散らかしたブーツを並べて、コートもシワにならないように拾って掛けてくれた。(これなんだろう。ああ…お母さんだ)ホットコーヒーの入ったマグカップをふたつ持ってきてわたしの側に座る。
「ありがと」
「一向に改善されないあなたのだらしなさには、本当に辟易しますね」
「いやあ、それ程でも」
「貶してますから」
大体こんなだらしない人間(自分で言うのも何だけど)のどこがいいんだろう、と思うときもある。どうして只の一般人を、強いて言うならへっぽこトレーナーを、ランスは好きでいてくれるのだろうと。体を少し
だけ起こして、珍しくソファーではなくホットカーペットのうえで雑誌を読み始める彼をみた。……眼鏡を掛けて、字をなぞる姿でさえも様になる、彼は美青年の部類だ、と思う。
「ランスは綺麗だね」
「…気持ち悪っ」
「えっ、ちょ、彼女の言葉に何て言いぐさ」
「…大体、顔をほめられて嬉しい人間がどこにいるんですか」
これには些かの棘がある。ランスが以前この顔のことで苦労したのだと言っていたことを思い出した。だからと言って不細工に生まれたかった訳でもないと合理的に割り切っていることも知っている。けれど私自身が平凡な顔をしているからだろう、あまり彼の気持ちが解らなかった。
「あ、…霜焼けになってますよ」
「え」
「あれほど言ったのに、マフラー付けずに外に出たから」
急にランスが私の頬を軽く両手ではさんで、赤くなった部分をなぜた。言われればそこはぴりぴりとして部屋の暖気がしみる。
「こっ、…こんなにだらしなくても、…私が好きなくせに…」
言い慣れない言葉に舌がもつれそうになるのを、なんとか耐えて言い切った。すると、彼は気難しいような表情をして、…さも残念そうだ。
「私があなたを好きでいるのは」
「…うん」
「今、あなたを嫌いになるよりずっと簡単だから、です」
「…どういうこと?」
いまいち意味が汲み取れない。
「それ位簡単に理解して下さい」
「え?いや、…ランスが私を好きで、嫌いで…何?」
「……とんでもなく頭が弱い子ですね、可哀想に」
「うわはらたつ」
ちょっと紙に書いて考えてみることにします。
20110414