There is not recalling.
「わかれよっか」
ぽつりと、まるで前々から決めていたかのような口振りで自慢だといっていた黒髪を耳にかきあげながら俺に言い放った。体は未だにこんなに近くにあるのに、心ここにあらずと言うのは正にこのことだ。
「どうしてだ」
「ごめんね他に好きな人が出来たの」
「いつから」
「解らない」
頭を振って、膝に抱き上げていた彼女は脱ぎかけたシャツをそっと整える。なんて、まるで終わりみたいだろう。いや、終わりなんだ。
「ごめんね」
こぼれ落ちた涙を拭うには気力がなさすぎた。本来ならば怒るべきなのだろう、それとも後腐れなく自分から消えるべきなのか。一緒に死んでもいいと思える位好きだった、今も好きだ。きっとずっと俺は忘れないだろう。余りにも同じ時間を過ごしすぎてしまったのだから。おまえはどうだろう。俺のことなどすぐに忘れてしまうのだろうか。
◎◎◎
ついに二度目に死ぬ日がやってきた。一度目はシックスと出会ったあの日だ。二度目、警察ってやつもなかなかやるじゃねえか。
「っ、あちいな」
身を焦がした業火は自業自得かそれとも犯罪者の華々しい最後と言えるものか。まあいい、それなりに楽しかった。人はやっぱりどんなことでも体験しておくべきだと改めて思う。人を殺すことでも、愛することでも、倫理から外れても歪んでも。‥‥
「くそ」
つまるところ、浮かんだのはあの女だった。確か意志の強いやつだった。髪は、体は、どうだっただろうか。
「‥あほらしいこった」
目の前に崩れてくる瓦礫をかわす術はない。
「この軟弱者」
痛みはいつまでもこなかった。あるとすれば下半身にずっしりと乗っかっている物体が体を軋ませているからだけで、落ちたはずのコンクリートは向こう側に転がっている。
嘘だろう。どうして、
「あの非人間もじゃもじゃは絶対死ぬわ、ざまあみなさいってなもんよ。で、葛西はお役御免で晴れてフリーの犯罪者!やったね!ってのがこれからの私の予想」
「‥‥縁起でもねェ」
「馬鹿、私シックスのせいで仕方なく別れたのに!私にいまさら葛西以外好きになる選択肢なんか無いんだからこの放火魔!好き!死ね!ああやっぱ死なないで!!」
あんまりだ。と、頬を膨らませて抱きついてきた。おいおい、何だ、暴言は抜きにしてこれは夢か?それとももう俺は死んだのか。
「また‥膝の上で真剣な話か‥‥」
「降りる?」
「いやいい、寧ろ居てくれ」
「ここ危ないけどね」
「なら、出るかねえ。積もることは後でだ」
「えー、少し位いちゃいちゃしようよー」
「‥お前のそういう所が好きだがなァ」
そういえばさっきは何でコンクリートを防いだんだ、と聞くと、ポケットからとんでもない火器が出てきて、見なかったことにすると決めた。色々変わるところもあったらしい。それも聞こう。
「歩ける?」
「ま‥なんとか」
「頑張れ四十二歳!!」
「四十一だ小娘」
「あはっ変わんねー」
あやまちが臨みどおりになくなるとは思わないけれど
薄れることを信じてる、
20100917
シチュエーションは膝の上でいちゃいちゃを採用させて頂きました!
七万打ありがとうございました―!!