私は行くが君は平和でのリンク作品
お腹がすいた。もうかれこれ一週間位はコーヒーとその辺にあったお菓子で生活している。そのせいか体がだるいし頭は働かないし良いことがない、強いて良いことを考えてみれば痩せたことだろうか。
「おまえはこのまんまがいい」とかくさい少女漫画地味たことを言われたあの日が昨日みたいに思い出せて笑えた、葛西はもう死んだというのに、
「…ばかだねえ、わたし」
そういえばこんなにひもじい思いをしているのは全部葛西のせいなんだ、だってご飯をまともに食べなくなったのは葛西が死んでからすぐ。葛西がいないとわたし、何もする気にならないんだよ、分かってよ、葛西。多分こんな体たらく見たら、笑いながらご飯の一つや二つ作ってくれるだろうに。洗いものが溜まった流し台とか、二つ歯ブラシが刺さったコップとか、男物の上着とか、見ているとやはり悲しい。死んだ人間は帰るはずないのにまだ心のどこかで葛西を探していた。
「あの火災おたくー」
プルルル、部屋の隅にがらくたのように置かれた家電が鳴った。ディスプレイには非通知、の文字。普段なら面倒で取らない非通知を珍しく取って耳に当ててみる。
「もしもし」
「―…」
「もしも―し」
「メッセージが一件です」
機械質な声、ピーとした無機質な音が響いた、いきなりセンターに繋がった事に驚きながら、受話器を握りしめたまま動けない。
「元気にしてるか」
「………」
聞き慣れた懐かしいあの声、会いたい葛西の声がまるですぐそばにいる様に感じる、背中に冷たい汗が落ちて、でも受話器は手にしたまま。
「葛西」
「おまえは生きなきゃならねえ」
「葛西、わたしは葛西と死にたかったって言ってるのに」
生きろ、また生前口にあまりしなかった台詞を易々と吐く。
「コーヒーばかり飲むなよ、後女なんだから洗いもん位しろ、流し台が汚くなるしな」
「…なんで、わかるの、…」
これは死ぬ前に葛西が残した軌跡、あなたがわたしの傍にいた記し、葛西、葛西、わたしはちゃんと出来てますか、おまえの望むようになれるのだろうか、あのときも心配させるあまり死んだおまえはわたしのところに現れてくれた、もう、大丈夫。
「…うん、洗いものもちゃんとする、ご飯も食べるよ、…ちゃんと」
「火火火、」
この中年男。だけど愛してる、もう死に急いだりとかそんな歪んだ愛じゃなく、ちゃんと、ちゃんと、
別離、唯心確たる
20090313